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軍艦島レポート

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軍艦島

情熱海洋 FILE2

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軍艦島コンシェルジュに“PPD”として勤めている、「佐藤 義太郎」36歳。

 

我々は彼の背中を一日追った。

 

 

午前8時零分、車の排気音で溢れている中、一際けたたましい排気音をさせて一台のバイクが常盤ターミナルに近づいてきた。

 

 

Q おはようございます。かっこいいバイクですね。いつもバイク出勤なんですか??

 

「あーおはようございます。ほぼバイク通勤ですね。名前はジョナサン号です。

ジョナサン 音速の壁に〜♩ジョナサン きりもみする〜♩という歌があって、歌も含めジョナサンが好きで命名したんですよ」

 

 

彼は、嬉しそうそう言ってバイクから降り、ヘルメットをとった。

 

そのままターミナルの入口に向かうと思いきや、反対方向に歩を進めた。

 

 

Q どこに向かうのですか??

 

「あー気しないで下さい。僕は出勤前にターミナルを一周してゴミ拾いをしているんです。やはり職場ですし、ね??わかるでしょ??」

 

彼はそれ以上は何も語らずにいたが、口からは不規則に白い息が漏れていた。

どうやら、彼は歌うことが好きらしい。

 

 

9時零分、事務所に向かうと眉間にシワを寄せ真剣な剣幕でパソコン見つめる彼がそこにいた。

 

 

Q どうかしたんですか??

 

Q すみません・・・どうかしたんですか??

 

Q 佐藤さん‼︎どうかしたんですか‼︎?

 

3度目の問いにようやく彼は答えた。

 

「あなたですか。すみません弊社のホームページをどう改良すればお客様がご利用しやすいのか考えてました。すみませんが今は集中したいので後にしてもらえますか。」

 

 

かけている眼鏡を触りながらそう言うと、彼はまたパソコンに目を向けた。

 

事務所には、時々彼が刻むタイピング音だけが木霊していたが、電話音が室内に響きわたると彼は即座に受話器を耳に当てていた。

 

どうやら彼は集中していても、我々の声は届かずともお客様からの電話には無意識に反応するらしい。

洗練された一連の動作は、獣が狩りをしているかのように一切の無駄な動きがなかった。

 

 

12時零分、世間では一般的にお昼時である。

 

Q お疲れ様です。今からお昼ご飯ですか??

 

「お疲れ様です。先ほどは無下に対応して申し訳ございません。お昼ご飯を食べる前に10ほどお時間を頂けますか?実は僕、瞑想が日課になってまして。では早速始めますね。」

 

彼はそう言うと、間髪入れずに眼鏡を外し、上半身を机にうつぶせた。

部屋には一定のリズムで彼の吐息だけが聞こえ、静寂に包まれていた。

 

約20分後、彼の体が起き上がったので疑問に思ったことを投げかけた。

 

 

Q 我々が持つ瞑想のイメージはあぐらをかいて両手は親指と人差し指で円を作り、目を閉じ無心になるというイメージだったのですが??

 

「あはは。確かにそういった固定観念は僕にもありました。でもね、僕は僕なりの瞑想法を見つけたんです。よく周りからは寝てんじゃないの?と言われますが、断じて違います。これが僕が無心になれる最も良い体勢ですし、肝心なのは周りの目ではなく、瞑想によって自分自身に起こる結果です。現に僕は頭の中が非常にすっきりしている。これが全てです。」

 

 

恐らく彼は、我々が寝ているのではないか??という疑念の眼差しで見ていたことを全て解った上で、一点の曇りもない目で我々にそう説いてきた。

 

我々は彼の人間力の高さに驚嘆の念を抱かざるをえなかった。

 

 

17時45分、辺りは薄暗く、走行している車のヘッドライトがつきはじめていた。

そんな中、ジョナサン号に跨がろうとしている彼にそもそもの疑問をぶつけた。

 

Q 今更なんですが、PPDとはどういった意味ですか??

 

「プロジェクトプロモーションデスクの略ですね。主な業務内容は広報に関わることやってまして、他にも諸々何でもやっています。」

 

Q では、あなたにとってPPDとは何ですか?

 

「ジョナサンですね。かもめのジョナサン。ジョナサンは飛ぶことに対して自分の限界を追求し続けた。周りの目は気にしません。僕はPPDとして何ができるのか、ジョナサンのように自分を高め続けたい。」

 

Q 今日はありがとうございました。何か言い残したことはありませんか?

 

「皆様、弊社のツアーをご利用の際はPPD佐藤に何でもお申し付け下さい。笑顔でお出迎えさせていただきます。今日はあなた方もありがとうございました。それでは。」

 

我々はジョナサン号に跨る彼をけたたましい排気音が聞こえなくなるまで見送った。

彼はバイクの上ではジョナサンのように早く走ることを追求していなかった。

 

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