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軍艦島レポート

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情熱海洋

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長崎市常盤に係船している船、はやて2の船長「堺 賢介」23歳。

 
我々は彼の背中を一日追った。
 

早朝5時30分、まだ薄暗い中、彼は白い息を吐きながら常盤桟橋に姿を現した。
 
Q,おはようございます。朝早いんですね。いつもこの時間で??
 
「おはようございます。日によって違うのですが大体この時間ですね。軍艦島クルーズとは違う別の業務があるので。今日は一日よろしくお願いします。良かったらこれどうぞ」
 

そう言って差し出したのは温かいポッカレモンだった。気遣いを忘れないその姿に早速彼の人の良さが窺えた。更にコーヒーではなく、万人受けするポッカレモンというチョイスにセンスの良さも滲みでている。
 
午前8時零分
業務を終え彼の乗船するマーキュリーが常盤桟橋に入港してきた。
入港後、船体を真水で流したり、船内清掃を俊敏に行っている。
清掃行っている最中、時折彼の顔に笑顔が見られた。我々はその微妙な変化を見逃さなかった。

 
Q.何故清掃をしながら笑顔になるのですか??

 
「笑顔になってました??よく言われるんですけど無意識なんですよ。決してふざけてる訳ではないですよ。お客様の前ではどんな時でも笑顔というのが僕の信条でして、勤務時間になったら自然と出ちゃうんです。職業病ですね」

 
彼は当たり前のように答えたが、簡単にできることではない。ここまで無意識でできるのにどんなに修行を重ねたことか。恐悦の至りとはこのことだろう。
我々はその言動に彼のプロとしての気概を感じた。
 
 
午後1時零分
午前便の端島クルーズを終え彼はマーキュリーと共に常盤桟橋に戻ってきた。お客様のお見送りをした直後、彼は係船してあるはやて2に乗船した。我々もすかさずはやて2に乗船し「お疲れ様でした」と声をかけると、彼は手で我々を制し一言「少し待ってください」と語気を強く発した。
船のハンドルと前後進を操作するであろうクラッチを握り何かを呟くように瞑想していた。
その顔に午前中に見られた笑顔はなく、我々が何か気に触ることをしたのではないか?と自問自答する程危機迫るものがあった。
 

約5分後、彼は息をゆっくり且つ深く吐き出した後、いつもの笑顔で我々に向かい「お疲れ様です。先ほどはすみませんでした」とようやく言葉を発した。
 

Q.先ほどは何を考え、何をしていたのですか??
 
「お恥ずかしいところをお見せしました。午後にはやて2の軍艦島の周遊チャーターが入ってますので、操船のイメージトレーニングをしました。午前便で海上の時化具合が分かりましたので、波の向きや高さ、風向風力を鑑みてクラッチの入れ方やハンドルの捌き方を確認しておりました。」
 

そう言うと彼はいつもかけているメガネを外し、入念にメガネのチェックを行い出した。尋常ではないメガネのチェック。メガネクリーナーを使用し綺麗に拭きあげ何度もかけては外しを繰り返している。
 

Q.何故そこまで執拗にメガネを??

「あははは。確かに気になりますよね。はっきり言って僕は目が悪い。船員にとって視力はとても大事なものなんですよ。船の事故の原因は色々ありますが、そのほとんどが見張り不十分なんですよ。ここまで言えば分かりますよね??」
 

何気ない質問をかけたものの、彼の行動は全て船の安全に直結していた。我々は彼の集中を削ぐ恐れがあるため、はやて2の周遊が終わるまで一旦質問をやめ、隅で彼の行動を見守った。
素早い動きでエンジンや舵のチェック、舷梯の動作確認等、示唆呼称を行っていたが、顔にはやはり職業病が出ていた。
 
 
午後4時30分
はやて2の軍艦島周遊を無事に終えた彼は再びマーキュリーに乗り込んだ。
どうやらまた別業務で出航するらしい。

 
Q.今日は一日ご迷惑おかけしました。最後に聞きますがあなたにとって船員とは何ですか??
 
「難しい質問ですね。それを探すために僕は船員として生きているのかもしれません。ですので、回答としては『いつか分かる時がクルーかも』としておきます。」
 

どうやら彼はユーモアに欠けているようだ。
彼は船員として船員とは何かを探し、今日も船に乗る。

 
そして彼が乗ったマーキュリーが汽笛をならし桟橋を離れていった。

スピードを上げ、エンジン音が唸る中、桟橋で見送っている我々に対し彼は大声で言った。
 
「あなたの人生のUW
 
我々は言ってる意味がわからなかった。彼の会社の名前であるUWを示しているのだろうか?しかしそれではあなたの人生とは文として繋がらない。
ネットで調べると海の世界では船で他船等に知らせるために国際信号旗なるものが存在することを知った。


どうやらUW
 

『ご安航を祈る』


という意味らしい。

 
 
先ほど書いたことは訂正する。
彼はユーモアを持ち合わせている。
 

 
主演:堺 賢介   
監督・脚本 ノザキ

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